相続が発生したとき​

遺産分割コラム

Q

.会社経営者である父が亡くなりました。相続人は、長男である私を含めた兄弟3人です。発行済株式は1000株で、父が670株、私が300株、二男が20株、三男が10株を有していました。 定時株主総会までに遺産分割が成立しない場合、父の株式については、誰が議決権を行使することになりますか?

A

A

共有持分の過半数により、権利行使者を1人決めることになります。

1.遺産分割未了の間、被相続人が有していた株式は、共同相続人間で準共有状態になります。

権利行使者の指定は、共有物の管理行為(=共有物の財産としての性質を変えない範囲での利用・改良行為)にあたり、持分の過半数で行うものとするのが、判例・通説の考え方です。権利行使者を指定したうえで会社に通知しなければ、議決権を行使することはできません(会社法第106条本文)。

相談者・二男・三男の3人で権利行使者選定を協議しますが、例えば、相談者がご自身を、二男及び三男が二男を権利行使者に望んだ場合、被相続人の株式670株については、二男が議決権を行使することになります。

2.権利行使者の選定にあたっては、共有者全員に、協議への参加の機会を与える必要があります。

もっとも、一部の共有者の不参加にやむを得ない事情があり、仮に参加の機会を与えても選定結果が異なると考えにくい場合等には、参加の機会の保障を欠いた選定も、有効と解される場合があります。

3.権利行使者の指定・通知が行われた場合、権利行使者は、自己の判断に基づき、議決権を行使することができます。したがって、事前に共有者間における議決権行使方法に関する合意があったにもかかわらず、権利行使者が株主総会でかかる合意に反する議決権行使を行ったとしても、会社との関係では有効です。

例えば、相談者と三男が、「三男を権利行使者とし、定時株主総会で、長男の取締役重任議案に賛成し、二男の取締役重任議案に反対する」と合意したにもかかわらず、三男が、長男の取締役重任議案に反対・二男の取締役重任議案に賛成したとしても、当該株主総会決議は有効です。

4.共同相続人間の権利行使者の指定・通知がない場合でも、会社が同意すれば、議決権の行使が認められます(会社法第106条ただし書)。

もっとも、この規定は、あくまでも、共同相続人間で、民法上の共有の規定(民法第251条、252条)に従った議決権行使の方法が定められている場合に、会社が同意すれば、会社法所定の手続を履践しなくても議決権が行使できることを定めるものです。いくら会社が同意したからといって、共同相続人の1人の専断等、民法上の共有の規定に反した議決権行使が有効になるものではありません。

 

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