相続が発生したとき
遺産分割コラム
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.父は3年前に亡くなり、今年、母が亡くなりました。母の相続人は、私たち兄弟3人です。私は、長男で、葬儀では喪主を務め、葬儀費用を負担しました。また、今後、法事等にも費用がかかります。そのため、相続財産の中から、葬儀費用相当額を出してほしいと思っていますし、今後の法事等のための費用もありますから、他の相続人よりも多くの財産を相続することが認められてしかるべきだと思っています。また、私が墓を継いでいくのですが、他の兄弟から分骨してほしいと言われており、私としてはこれを拒否したいと思っています。私のこのような考えは、遺産分割協議において認められるものでしょうか。
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1 葬儀費用等
(1)葬儀費用
葬儀費用とは、追悼儀式及び埋葬に必要な費用であり、具体的には、棺柩その他の祭具、火葬、墓標、通夜や告別式、納骨などに要する費用のことです。
この葬儀費用をだれが負担すべきかは、相続人間でしばしば争いになるところです。
葬儀費用の負担者に関しては、共同相続人が法定相続分に応じて分割して承継するという見解、葬儀を主宰した喪主が負担するという見解、相続財産である遺産をもって支出すべきだとする見解など諸説があり、定説をみません。
しかし、そもそも、葬儀費用は、被相続人の相続開始後に生じた債務であり、相続財産とは言えませんので、遺産分割の対象とはなりません。
したがって、葬儀費用の負担については、本来は民事訴訟により解決されるべきものです。もっとも、相続に関する紛争を一回で解決しようという観点からは、共同相続人全員の合意がある場合は、これを遺産分割の対象に含めることができるとされています。
(2)香典
香典は、葬儀費用の負担を軽減する相互扶助、遺族への慰めなどの慣習により、被相続人の死後に喪主や遺族への贈与として交付される金員ですので、相続財産には該当しません。
そのため、遺産分割の対象とはなりません。
2 祭祀財産
系譜、位牌や仏壇などの祭具、墓地や墓石などの墳墓を祭祀財産といいます。
祭祀財産については、慣習に従って祖先の祭祀を主宰するべき者が承継することを原則とし、被相続人が指定した者があるときはその者が祭祀承継者となります(民法897条1項)。慣習が明らかでないときは、祭祀承継者を家庭裁判所が決定します(民法897条2項)。
祭祀財産は、祭祀承継者に帰属し、遺産分割の対象とはなりません。
3 遺骸・遺骨
遺骸や遺骨が所有権の対象となるかについては、裁判所の判断が分かれていますが、最高裁平成元年7月18日判決は、被相続人の遺骨の引渡し請求の中で、遺骨の所有権を観念できるかについては触れることなく、遺骨は慣習に従って祭祀を主宰すべき者に帰属する旨を判示しました。
遺骨は、祭祀承継者に帰属すると考えられ、遺産分割の対象とはなりません。
4 まとめ
以上のように、喪主として葬儀費用を負担しても、他の相続人の同意がなければ、遺産分割の対象とすることはできません。
一方、あなたが祭祀承継者であれば、分骨には応じる必要はありません。
遺産分割協議は、心情的な対立を生じやすい場面です。どのように遺産分割を進めるべきかなどにお悩みでしたら、一度、弁護士法人アステル法律事務所へご相談ください。