相続が発生したとき​

相続財産の価値増加に貢献した相続人がいる場合の遺産分割(寄与分)

Q

.今年、父が亡くなりました。母は既に他界しており、父の相続人は、私と弟と妹の3人です。母は、若くして亡くなってしまったので、私は、父を大切にしており、少しでも親孝行がしたいと思って、就職後は、長年にわたって、給料の大部分を父に仕送りとして送金してきました。私は、独身ですが、他の弟妹は、大学から県外に出て、早くに結婚していることもあってか、特に父への仕送りはしていなかったようです。父は、私からの仕送りと自らの蓄えを使って自宅を購入して、亡くなるまで同所で生活をしていました。父の遺産は預貯金と自宅不動産となっています。父は、生前、すべての財産を私に相続させると話してくれていたのですが、遺言書を作成しないまま亡くなってしまいました。 父の相続に関して、弟妹と遺産分割の話をしたところ、弟妹は、心苦しいけれど、家族の意向もあるので、法律で貰えるとされている分については、取得したいとのことでした。私は、数十年の間、父に少しでも恩返しをしたいと仕送りを続けてきました。それがあって、父は自宅を購入することができたと思いますので、そうした貢献をしていない弟妹が全く同じ割合で相続するということについては、納得できないところがあります。私の仕送りについて、弟妹に対して、何か主張することはできないでしょうか。

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A 寄与分を主張することが考えられます。

1 寄与分の主張

寄与分が主張できるケースは、①療養看護型、②家業従事型、③金銭等出資型、④財産管理型、⑤扶養型の5類型に整理されているところ、ご相談の案件では、被相続人であるお父さんに仕送りを続けてこられたとのことですので、「③金銭等出資型」の寄与分が認められる可能性があります。

「③金銭等出資型」の寄与分が認められるためには、次の要件が必要とされています。

⑴ 特別な貢献

被相続人との身分関係に基づいて通常期待される程度を越える特別な貢献である必要があります。被相続人に提供した財産の額やその意図、内容などが考慮されます。子どもへの小遣いやお年玉、お中元・お歳暮といった儀礼的な給付については、一般的に大きな額になることはありませんので、特別な貢献とは評価されないと思われます。

⑵ 無償性

被相続人への金銭等の提供が、無報酬又はこれに近いものである必要があります。例えば、被相続人の在宅介護生活のために被相続人の自宅をリフォームする費用負担した場合や、自らの所有不動産を被相続人に長期に亘って無償で提供したといった場合などが考えられます。

被相続人名義の家に同居しつつ、その家の住宅ローンを被相続人に代わって長期に亘って支払ってきた場合のように相続人が一定の利益を得ている場合には、上記(1)の特別な貢献は満たすと考えられますが、この無償性の要件を満たさないと判断されるおそれがあります。また、無償性の要件を満たすと評価された場合でも、受けた利益については寄与分額の減額要素として考慮されることになります。

⑶ 因果関係

金銭等の出資によって被相続人の遺産が増加し、又は維持されたという結果が必要です。

 

2 金銭等出資型の寄与分の計算方法

寄与分は、「寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して」定めるとされており(民法第904条の2第2項)、法律で計算方法が定められているわけではありません。もっとも、寄与分を求める場合には、何らかの方法で金額を計算することが必要となりますので、金銭等出資型の寄与分を主張する際には、その態様により、例えば、次のような計算方法によって計算することになります。

【継続的な贈与をしていた場合】

贈与額×貨幣価値変動率×裁量割合(事案によって個別に定められます)

【不動産を無償で貸与した場合】

相続開始時の賃料相当額×使用期間×裁量割合

【不動産を贈与した場合】

相続開始時の不動産の評価額×裁量割合

 

3 上記のとおり、寄与分には、「③金銭等出資型」のほかに、①療養看護型、③金銭等出資型、④財産管理型、⑤扶養型があります。いずれの寄与分も、認められるためには「特別の寄与」という高いハードルをクリアする必要があります。被相続人が、他の弟妹よりも多くを取得させたいという意向をお持ちであった場合は、遺言書を作成されておくことをお勧めします。

また、従前、相続人以外は寄与分を主張することができませんでしたが、被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした被相続人の親族に「特別寄与料請求権」を付与する制度が新設されました(1050条)。ただし、「特別寄与料請求権」は、相続の開始及び相続人を知った時から六箇月、又は相続開始の時から一年のいずれかを経過する前に、家庭裁判所に特別寄与料を定める調停ないし審判を申し立てる必要がありますので、当事者間での話し合いが難しい場合は、早期の対応が必要です。

遺言や遺産分割についてお悩みでしたら、一度、弁護士法人アステル法律事務所へご相談ください。