相続が発生したとき​

遺言書を発見した場合

Q

.実際に遺言書が無効になってしまった事案には、どのようなものがありますか?

A

A 最近の裁判例(東京高裁平成30年2月22日)に、次のようなものがあります。

1 事案
本件は、92歳で亡くなった母Aの遺産(主に不動産)について、兄弟姉妹及びその子ら6名(X、Y1~Y5)の間で、遺言の有効性についての争いが生じた事案です。
遺言書では、三女Xに対して全財産を遺贈する旨が書かれており、この遺言書が検認され、亡AからXへの不動産の移転登記が完了していました。
X以外の相続人Y1~Y5は、亡Aの筆跡と遺言書の筆跡が異なることなどから、遺言の効力を争い、法定相続分に従った割合での所有権移転登記手続を求めて提訴しました。
2 遺言書の作成状況等について
遺言書は、亡Aが88歳の時に作成されたものでした。
亡Aは、遺言書を作成する5年ほど前に脳梗塞を発症して入院したり(後遺症無し)、その後間もなく帯状疱疹を発症したりして、ひとり暮らしに支障が生じ、三女Xと同居するようになりました。
長男Y1らは、当時亡Aと同居していたXが関与して、遺言書が偽造されたのではないかと疑ったものとみられます。
裁判では、遺言書の筆跡が亡Aのものと異なるとして、Y1らが遺言書を作成する何年か前の手紙等を証拠として提出するなどしました。
これに対し、Xは、遺言書の亡Aの筆跡が従前の筆跡と異なるのは、遺言書を作成する前に亡Aが発症した帯状疱疹等により、亡Aが右肩・右腕に神経痛が残っていたためであるなどと主張し、これに沿うような当時の診断書を提出するなどしました。
また、本件遺言書の作成・保管には行政書士Gが関与していたため、Gが証言をしました。しかし、Gは、肝心の遺言書の筆跡等について、「預かったのがだいぶ前なので、遺言者のものかどうか記憶にない」と証言するにとどまりました。
3 裁判所の判断について
裁判所は、まず、Y1らが提出した過去の亡Aの筆跡と、遺言書の筆跡とが同じものであるかどうかについて、鑑定を行いました。この鑑定の結果、鑑定人は「異なる筆跡であると推定する」と鑑定し、裁判所もこれを是認しました。
そうすると、次に、異なる筆跡であることを前提として、異なることの説明がつくかどうかを検討することになります。腕の神経痛や認知症の進行により、書字能力が劣化して、従前と異なる筆跡になることはありうることです。
裁判では、多数の医療機関の診断書や介護記録等から、亡Aの神経痛の有無や亡Aの認知症の進行の程度、それらが書字能力に与える影響の有無・程度等について、検討されました。
その結果、亡Aの帯状疱疹後の神経痛による右肩の痛みと右腕のしびれにより書字能力等が相当程度劣化していたことを認めることはできず、認知症についても、それにより書字能力が相当程度劣化していたとは認められないとして、遺言書の筆跡は亡Aのものではなく、遺言は無効と判断されました。
そして、Y1らの所有権移転登記手続請求も認められました。

この裁判は、Aが亡くなってから約4年を経て、決着しました。
遺言が有効か無効かを争う裁判は、長期にわたることが多く、親族の皆さんの心身の負担も大きなものになります。
これから遺言書を作成される方は、本人確認等がなされる公正証書により作成することをお勧めします。
また、万が一遺言の効力を争うことになってしまった場合には、上記裁判例のように、多数の資料を用いた主張立証が必要になってきますので、弁護士にご相談いただければと思います。

 

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